文化人類学とは? -簡単な入門-

文化人類学とは?相手の視点で文化を理解する社会科学 -簡単な入門-

 

文化人類学では何をするのでしょうか?想像してみてください。多分、全く想像がつかないかもしれません。でも大丈夫です、このページでは文化人類学が一体何なのか、文化人類学では何をするのかを簡単に説明します。一言で言うと、文化人類学とは今実際に生きている人々のもつ文化や社会、考え方を、彼ら彼女らの視点で理解しようとする学問です。そして、文化人類学者は民族誌というリポートに研究結果を残します。

では、文化人類学の重要なポイントをみていきましょう。

文化人類学では人々や人々の文化に焦点を当てます

文化人類学では、人間の持つ「文化」に焦点を当てます。人々の持つ「文化」の特徴を理解するために疑問を持ちます。特定の文化や社会に焦点を当てた疑問から、人間がもつ文化全般に関する疑問まで、多種多様です。たとえば、「日本社会で結婚にはどんな意味があるのか」や、「ペルーの山地に住む人々はどのように気候変動に影響された環境に適応しているのか」 (International Society of Ethnobiology)、「長崎の島に住む漁師たちの時間の感覚は本土の人々とどう違うのか」 (Yamada 2015)などが特定の文化や社会に焦点を当てた疑問でしょう。また人間の持つ文化一般に関するスケールの大きな疑問は、「贈り物や交換が人と人とのつながりにどのような影響を与えるか」、「宗教が社会でどのような役割を持つのか」、「言語は人間の考えをどれくらい形作るのか」、「どのように社会の階級はうまれるのか」、「人種とはなにか」、「家族とはなにか」、「女性の話し方と男性の話し方はどう違うのか」、「どのように移民は新しい文化に馴染むのか」などでしょう。

 

文化人類学では今生きている文化を研究します

文化人類学者は実際に今生きている文化を研究するので文化人類学が他の学問とは異なります。例えば、歴史学者も文化について研究するかもしれません。でも文化人類学者と歴史学者の大きな違いは、歴史学者は古い文献を読み漁り過去の人々の行動を記述し、文化人類学者は今生きている人々と交流し、生きている文化や社会について記述します。

 

多くの文化人類学者たちは文化を内側から研究します -参与観察-

もし人々の文化や考え方を理解したいと思ったらなにをしますか?生きている文化を理解するために、文化人類学者はよく自分の研究対象のグループに近づき(というよりかは中に入り)、学者によっては実際に衣食住を共にして、彼ら彼女らの考え方や行動パターン、言語、人間関係についてを理解しようとします。これは参与観察 (participant observation)といわれるフィールドワークの手法で、自分が研究対象のグループに参加することによってそのグループの文化を内側から見るのです。この手法は多くの文化人類学者や社会学者の間で使われていて、文化人類学の中で最も重要な研究方法のひとつです。もし、自分がモンゴルの遊牧民の文化と生活について詳しくしりたいならどうるでしょうか?きっと実際にモンゴルの遊牧民たちと暮らして、遊牧民たちの生活の仕方や文化を教わることによって得る遊牧民に関しての知識は、本やインターネットで得る彼ら彼女らの文化の情報よりリアリティ豊富でしょう。(もちろん文化人類学者たちは実際にフィールドワークをする前に、研究対象について事前にたくさんの文献を読みます)

フィールドワークの父とも言われるブロニスワフ・マリノフスキはニューギニアでのフィールドワークの際に、実際に現地の人の村に住み現地の言葉を自然に習得する事によって、儀式や住民同士のいざこざなどを自分の目で見たと言っています。(Argonauts of the Western Pacific Bronislaw Malinowski)

優れた文化や劣っている文化など無い – 文化相対主義-

多くの文化人類学者たちは優れた文化や劣っている文化など無いと信じます。研究対象の文化をよく理解するために、文化人類学者たちは「この文化は劣っている」、「この文化は他の文化よりも優れている」などの判断をしません。考えてみてください、「この文化は劣っている」と客観的に判断する基準はありますか?そのかわりに、文化人類学者たちはどのように研究対象の社会が機能するのかやどのように人々が考え、行動するのか、シンボルなどがどういった意味を持つのかを研究対象の人々の視点で理解しようとします。日本語では「相手の視点」もしくは「相手の立場」というフレーズがよく使われます。相手の視点から相手の文化を見ることによって、自分の視点からでは見えない相手のことがわかります。

もし相手の立場で相手の文化を見れないとどういことが起こるでしょう。勝手に自分の文化のものさしで相手の文化の価値を決めつけてしまうかもしれません。これは「自民族中心主義」といわれています(エスノセントリズムともいう)。このポイントを示す面白い風刺画があります。その画の中で水着の女性とベールに覆われたイスラム教徒の女性がお互いの服装を見てそれぞれの文化を判断しています。水着を着た女性はベールに覆われた女性を見てこう思います。「なんてひどい男性中心の社会なの!?目以外全身隠されてるじゃない!」一方、ベールに覆われた女性は水着とサングラスの女性を見て「なんてひどい男性中心の社会なの!?目しか隠されてないじゃない!」と思います。現代の欧米社会では女性は自分自身で自由な服装を選ぶ権利があると考えます。一方で多くのイスラム教社会では女性はベールを被ることによって男性の視線から守られていると考えます。サングラスの女性とベールの女性はお互いの文化を深く理解できていると思いますか?

一見理解しがたい「異文化」も、その文化のメンバーの視点から見ることによって深く理解することができるでしょう。

異文化に溶け込もうとする一方、研究者としての立場も忘れない

文化人類学者は異文化に溶け込んでいく努力をする一方で、研究者としての客観的な立場を完全に失うことを避けます。なぜなら、文化人類学者は民族誌を書かなければいけないからです。もし、文化人類学者があまりに研究対象の文化に溶け込みすぎて、その文化中心にしか物事を考えられなくなってしまったらどうでしょう?研究対象の文化と自分の文化もしくはほかの文化がどう違うのかを考えれなくなってしまうでしょう。他の文化を見下すようになってしまったらどうしましょう。これは多様な価値観に耳を傾ける文化人類学者たちの立場とは真逆ですね。

多くの文化人類学者が異文化に溶け込むことと客観的な立場を保つことのジレンマに悩まされます。まだアメリカで文化人類学の研究方法が確立していない頃、参与観察をしてアメリカ先住民のズニ族とともに暮らしフィールドワークをしようとしたフランク・ハミルトン・クッシングは、最終的にはズニ族の聖職者グループに入り、ズニのメンバーたちに助言をすることもあったようです。彼の手法は文化人類学の研究方法が確立される前に、すでに参与観察をしていた点で評価されています。(Hicks and Gwynne 1996) また一方で、彼があまりに文化の一員になりすぎたために、文化人類学者として機能していなかったのではという批判もあります。なぜなら、クッシングはズニの聖職者として口止めされていたからです。(R. Beals, Hoijer and A. Beals 1977)

まとめ

このように文化人類学者は人々の持つ文化に関する疑問を持って研究をします。その疑問に答えるために文化人類学者は今現在存在する文化や社会のメンバーに近づき、相手の視点や価値観を理解しようとします。ただし、文化人類学者たちは相手の視点や価値観に耳を傾ける一方で、研究者としての客観的な立場)を失うことを拒みます。そして、文化人類学者は研究結果を民族誌として書き上げて、発表します。


参考文献 / さらに読みたい人のために

ABC News, . “The Parque de la Papa near Cusco Peru.” ABC News, ABC, Dec. 2013, www.abc.net.au/news/rural/2013-12-04/parque-de-la-papa-potato-farmers-peru/5109974. Accessed 25 July 2017. オーストラリア放送協会による、アンデス山脈に住む人々の写真のページ。とても良い写真が多いので必見。

Beals, Ralph L., Harry Hoijer, and Alan R. Beals. An introduction to anthropology. 5th ed., New York, Macmillan Publishing Co., Inc., 1977. 米国の人類学入門書。アメリカ人類学の4分野(文化人類学、形質人類学、考古学、言語学)それぞれについて詳しく書かれている。

Hicks, David, and Margaret A. Gwynne. Cultural Anthropology. 2nd ed., New York, HarperCollins College Publishers, 1996, pp. 13-15. 米国の文化人類学の教科書。各ポイントがわかりやすく書かれている。

International Society of Ethnobiology “Indigenous spiritual values guide climate change adaptation in mountain communities.” International Society of Ethnobiology, International Society of Ethnobiology, http://www.ethnobiology.net/indigenous-spiritual-values-guide-climate-change-adaptation-in-mountain-communities/. Accessed 25 July 2017. 民族生物学の学会によるウェブサイト。アンデス山脈人々がどのように気候変動によってもたらされる生態系の変化などに適応していっているかなどについて書かれている。このトピックに関するオーストラリア放送協会のページには写真が多くあるのでこちらもおすすめ。

Malinowski, Bronisław. Argonauts of the western pacific. London, George Routledge & Sons, Ltd., 1932, pp. xvi-xvii, https://archive.org/details/argonautsofthewe032976mbp. Accessed 24 July 2017. フィールドワークの父マリノフスキによって書かれたニューギニアの人々についての民族誌。彼がどのようにフィールドワークを行ったのかが序章に記されている。

Yamada, Toru. “Being and Time in Nagasaki, Japan.” At home and in the field, edited by Suzanne S. Finney, Mary Mostafanezhad, Guido Carlo Pigliasco, and Forrest Wade Young, Honolulu, University of Hawai’i Press, 2015, 272-77. アジア太平洋地域のフィールドワークについて書かれた論文集。

   

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