なぜヨーロッパの言語は似ているのか

なぜヨーロッパの言語は似ているのでしょうか?英語や英語以外のヨーロッパの言語を習ったときに、2つのヨーロッパの言語が似ている事に気づく人は多いかもしれません。たとえば、英語とフランス語で数字を数えてみると、それぞれ one, two, three… un, deux, trois… と続きます。ドイツ語では eins, zwei, drei… スペイン語では uno, dos, tres… イタリア語では uno, due, tre…と続きます。単なる偶然でしょうか?

実は、多くのヨーロッパの言語がそれぞれ似ているのは偶然ではないようです。

ヨーロッパの言語が似ているのにはいくつかの理由があるのです。

ヨーロッパの地理は言語にも影響を与えた

まず、ヨーロッパの言語はヨーロッパの地図を埋めるかのように並んでいます。多くのヨーロッパの言語は語彙や発音の面でお互いに影響し合ってきました。

たとえば、英語で「征服する」は conquer で、フランス語では conquerir です。また、「牛肉」を意味する英語は beef で、フランス語では bœuf といいます。よく似た単語ですね。これらの単語は、過去にフランス語から英語に借用されたからです。このような借用語の例はヨーロッパの言語には沢山あります。

特に、イングランドはフランス語を喋るノルマン人(ノルマンディー地方のゲルマン系の民族でフランス語の方言を喋っていた)に支配されていた歴史もあって、英語ではフランス語からの借用語が特に多いのです。

Normannen
12世紀のノルマン人の領土を示した地図。イングランドがノルマン人に支配されているのが分かる。Normandieとはノルマンディー地方のこと。 By Captain Blood (Own work) [GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html) or CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/)%5D, via Wikimedia Commons

この時期の英語についてさらに読みたい方は研究社の記事をおすすめします。

共通の祖先の言語があるのでは?

しかし、多くのヨーロッパの言語が似ているのは、地理的に近いからだけではありません。実は多くのヨーロッパの言語が共通の祖先を持っていることがわかっています。多くのヨーロッパの学者たちはヨーロッパの言語が似ていることに気が付きました。

ヨーロッパの言語の研究はヨーロッパの学者たちが非ヨーロッパの言語のサンスクリット語などに遭遇した時に大きく発展しました。

なんと、非ヨーロッパの言語、サンスクリット語がラテン語などのヨーロッパの言語と似ているのです。たとえば、サンスクリット語で数を数えると、éka, dvi, trí, catúr, pañca, ṣáṣ, sapta, aṣṭá, náva, dasa… ラテン語では unus, duo, trēs, quattuor, quīnque, sex, septem, octo, novem, decem… 多くの単語が似た響きを持っています。

さらに、ペルシャ語で「父」と「母」は pedarmâdar で、ラテン語では pater, mater となります。多くの人は、「英語とも似てる」と思うかもしれません。

遠く離れたイランやインドなどの言語がヨーロッパの言語と似ているのは単なる偶然なのでしょうか?学者たちは仮説を立てました — ヨーロッパやインド、イランなどの言語は共通の祖先を持っているのではないか? — そしてその祖先にあたる言語は「印欧祖語」もしくは「インド・ヨーロッパ祖語」と名付けられました。

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インド・ヨーロッパ語族の分布を示す地図。この語族はユーラシアの広い地域に広がっている。黄色がヘレニック語派で青がインド・イラン語派、茶色がイタリック語派、オレンジがケルト語派、赤がゲルマン語派、紫がアルメニア語、黄緑がバルト語派、緑がスラヴ語派、水色がアルバニア語。(灰色は非インド・ヨーロッパ語族が主に使われている地域)By Hayden120  CC 3.0

そして、比較言語学者たちはただ単に似ている単語を見つけるだけではなく、なるべく古い時代の単語を再建しようと試みました。なぜなら、単語は簡単に他の言語から借用されることがあるので、借用される前の単語を比べないと共通の祖先の言語がどのような言語だったのかを推測できないのです。

もし、英語の sushi という単語と日本語の 寿司 (sushi) という単語を見て、「英語と日本語の単語は似ている!だから、英語と日本語は共通の祖先を持っているんだ!」というのはあまりにおかしすぎます。なぜなら、英語の sushi という単語は日本語からの借用語だからです。

このようなミスを防ぐためにインド・ヨーロッパ語族の研究者たちは古い時代の単語に注目し、可能な限り借用語を取り除きます。

しかし、それだけでは充分ではありません。

微妙な発音の違いはどう説明するの?

直感的に似ていると思える単語を並べてきました。でも英語の father やスペイン語の padreのように似ているように見えて、微妙に違う発音を持つ単語があります。発音が微妙に違うからといって見逃してはいけません。逆に、発音が似ていたり同じであったりしても偶然である可能性もあります。言語のつながりを発見するためには、過去の規則的な発音の変化にも注目しなくてはいけません。

単語の最初の f と p の発音に注目してみましょう。英語やドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語、アイスランド語、ノルウェー語などの言語では f として発音されます。father (英語), Vater (ドイツ語。v は f のように発音される), vader (オランダ語。オランダ語でも v は f のように発音される), far (スウェーデン語), far (デンマーク語), faðir (アイスランド語。ð は英語の the や this などの子音 th のように発音される)。

注意したいのはドイツ語やオランダ語ではvと綴られていますが、fとして発音されます。綴りに注目せず、発音に注目しましょう。

そして、フランス語やスペイン語、イタリア語、ポルトガル語ではpとして発音されます。たとえば、père (フランス語), padre (スペイン語), padre (イタリア語), pai (ポルトガル語)など。

これらの言語をグループとして分けることができます。

英語やドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語、アイスランド語、ノルウェー語などの言語はゲルマン諸語として分類されます。これらの言語はゲルマン祖語と呼ばれる共通の祖先の言語を持っていて、またゲルマン祖語は他の言語と古い時代に枝分かれしました。

フランス語やスペイン語、イタリア語、ポルトガル語などはロマンス諸語として分類され、ラテン語はロマンス諸語の共通の祖先です。

ゲルマン諸語は父を意味する単語の初めが f に変化したのを保ち、ロマンス諸語では p の発音を維持しているということです。足を意味する英単語の foot も ラテン語の pēs や、ラテン語から生まれたイタリア語の piede や フランス語の pied, スペイン語の pie と比較できます。

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言語のつながりを発見するために、比較言語学者たちは過去の規則的な発音の変化に注目する。CC0 Creative Commons

さらに多くの言語グループと印欧祖語

ヨーロッパや南アジア、西アジアの一部にはゲルマン語派、ロマンス諸語、スラブ語派、ケルト語派、ヘレニック語派、インドイラン語派などさらに多くの言語のグループが存在し、それらの語族は最終的にインド・ヨーロッパ祖語という共通の祖先にたどり着きます。

インド・ヨーロッパ語族の言語の分布の図を見てみましょう。インド周辺からヨーロッパのアイスランドまで広く分布しています。

さらに、現在では過去のヨーロッパの植民地主義のなごりで世界各地でインド・ヨーロッパ語族に属するヨーロッパの言語が使われています。たとえば、ゲルマン語派に属する英語はアメリカ合衆国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、南アフリカなど多くの国で使われています。フランス語はカナダやアフリカの国々の多くで使われ、スペイン語はスペインだけでなくブラジルをのぞく中南米の多くの国々や、北米(とくに中南米に近いアメリカの州)でも使われています。

 

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現在、インド・ヨーロッパ語族に属する言語は世界各地で使われている。日本でも学校でインド・ヨーロッパ語族に属する英語を習う。By Brianski Public Domain

 

 

最後にインドヨーロッパ語の簡単な単語の比較リストを見てみましょう。

インド・ヨーロッパ語族に属する言語

現在も使われている言語

過去に使われていた言語

ラテン語とラテン語から生まれた言語
ゲルマン語派 ロマンス諸語
意味/和訳 英語

ドイツ語

アイスランド語 フランス語 イタリア語 スペイン語 ラテン語

サンスクリット語

1

one eins einn un uno uno ūnus éka

2

two zwei tveir deux due dos duo dvi
3 three drei þrír trois tre tres trēs

trí

4 four vier fjórir quatre quattro quatro quattuor

catúr

5 five fünf fimm cinq cinque cinco quīnque

pañca

6 six sechs sex six sei seis sex

ṣáṣ

7

seven sieben sjö sept sette siete septem

saptá

8

eight acht átta huit otto ocho octō

aṣṭá

9

nine neun níu neuf nove nueve novem

náva

10

ten zehn tíu dix dieci diez decem

dasa

father Vatter faðir père padre padre pater

pitā

mother Mutter móðir mère mater madre mater

mātā

※この表に誤りがあったらぜひ指摘してください。

まとめ

多くのヨーロッパの言語が似ているのには理由がありました。地理的に近いことによってお互いの言語が単語を借り合うだけでなく、インド・ヨーロッパ祖語を共通の祖先として持ちます。また、その名前が示すように、インド・ヨーロッパ語族の言語はインドからヨーロッパに広がり、共通の祖先から現在の言語に分岐しました。

インド・ヨーロッパ語族はとても大きな語族なので、この記事ですべてを解説するのは不可能ですが、インド・ヨーロッパ語族に少し興味を持っていたただければ嬉しいです。インド・ヨーロッパ語族やそれに属する言語について扱った他の記事にもぜひ期待してください。

 


さらに読みたい方へ (外部サイト)

世界の歴史まっぷ – インド・ヨーロッパ語族

インド・ヨーロッパ語族の歴史についての記事。

連載「現代英語を英語史の視点から考える」

英語史に関する研究社の連載。英語どのように現在のような言語になったのかを知りたい方はぜひ読んでみてください。


参考文献

Kapović Mate. The Indo-European Languages Second Edition. Routledge, Taylor & Francis Group, 2017.

Mallory, J. P., and Douglas Q. Adams. The Oxford Introduction to Proto Indo European and the Proto Indo European World. Oxford University Press, 2008.

Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English like That: Historical Answers to Hard ELT Questions. Univ. of Michigan Press, 2009.

Singh, Ishtla. The History of the English Language: a Student’s Guide. Hodder Arnold, 2005.


変更 2018/4/10 – 一部言い回しの変更。 ご指摘ありがとうございました。

“なぜヨーロッパの言語は似ているのか” への 2 件のフィードバック

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