マレーシア北部、マレー半島の中部でスウェーデンのルンド大学の言語学者たちが「ジュデク」語 (英: Jedek) という言語が存在することを確認した。この言語が喋られている地域に人類学者が研究に来ることがあったが、言語学者によってジュデク語が研究されることは今までなかった。
この言語はマレーシア北部のでわずか280人の村民によって話されている。ジュデク語の話者の住む村では他に、ジャハイ語 (英: Jahai)が喋られている。
近隣の他の言語の研究に訪れた言語学者がジュデク語の存在に気がついたようだ。
音声のサンプルを聞いてみよう。
ジュデク語の話者たち
ジュデク語の話者たちはマレー半島の村に住む狩猟採集民で、個人が職業や特別な位を持つことはないようだ。また、お互いに暴力を振るうことは無いようだ。

ジュデク語の分類
ジュデク語はオーストロアジア語族のアスリ諸語に分類される。ベトナム語やクメール語(カンボジアなどで喋られている言語)はオーストロアジア語族に分類される言語だ。
オーストロアジア語族
オーストロアジア語族に属する言語は東南アジアや南アジアなどで喋られている。ベトナム語やクメール語(カンボジアなどで喋られている)はその例だ。
しかしオーストロアジア語族の言語の話者のDNAを解析して、彼ら彼女らの先祖がどこから来てどのように移動したのかを突き止めようとする試みもなされているが、学者たちは合意していないようだ。
一つの仮説では、東アジアの南部にオーストロアジア語族の話者たちの起源があり、そこから南や東南アジアに移住したという。(Zhang et al)
もう一つの説は、オーストロアジア語族の話者たちの起源はインドにあり、そこから先祖たちは東南アジアなどに広がったという。(Kumar et al)
どの説が正しいかどうかは今のところ分からないが、オーストロアジア語族の話者たちは他の語族の話者たちが東南アジアやその周辺に移住してくる前から地域に住んでいたようだ。
現在ではオーストロアジア語族の話者は様々な語族の言語を喋る人々によって囲まれている。
シナ・チベット語族(北京官話など中国語を含む)やオーストロネシア語族(マレー語などを含む)、タイ・カダイ語族(タイ語など)、ドラヴィダ語族(タミル語やテルグ語など)、インド・アーリア語族(ヒンディー語など)などの言語の話者がオーストロアジア語族の言語の話者たちを囲んでいる。
インド・アーリア語族 [By Filpro [CC BY 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)%5D, via Wikimedia Commons]
(ちなみにインド・アーリア語族はインド・ヨーロッパ語族というヨーロッパとインド周辺の多くの言語を含んだ語族に属する)Anthro JP 記事 なぜヨーロッパの言語は似ているのか
ジュデク語やジャハイ語などオーストロアジア語族のアスリ諸語に分類される言語はマレー語などのオーストロネシア語族の話者に囲まれている。
ベトナム語はオーストロアジア語族に属するが、シナ・チベット語族の中国語から語彙の面で大きく影響を受けている。
最後に
世界には5,000から7,000もの言語が存在していると言われている。しかし、多くの言語は少数の人々にしか喋れておらず、言語学者たちに研究されていない言語も多い。
※これまでにあまり知られていなかった言語を「発見」したと言うことがあるが、実際にはその言語は外部の人々に知られる前から存在していたのである。外部に知られていなかった言語と遭遇して「新しい言語を発見した」というのは「新大陸」を「発見した」と言うのと似ている。
言語についてさらに読みたい方は
Anthro JP みんなの人類学
なぜヨーロッパの言語は似ているのか
ヨーロッパの多くの言語が互いに似ているのには理由がある。
アメリカ英語の発音、イギリス英語の発音・・・ ~英語の方言シリーズ~
英語にも色々な方言がある。イギリス方言とアメリカ方言はよく引き合いに出される。
外部ウェブサイト
オーストロネシア語族の広がり-地球上で最も広い面積に分布する言語族「オーストロネシア諸語」-
国立民族学博物館の研究者によって書かれた、オーストロネシア語族の広がりに関する記事。オーストロネシア語族の言語はオーストロアジア語族の言語はお互い近い地域で喋られている。
アジアの語族の地図
NHKによって作られた地図で、とても見やすい。
参考記事
ScienceDaily, ScienceDaily, www.sciencedaily.com/releases/2018/02/180206100349.htm.
“Austro-Asiatic Language Family .” About World Languages, aboutworldlanguages.com/austro-asiatic-language-family.
“Austroasiatic.” Glottolog 3.2, glottolog.org/resource/languoid/id/aust1305.
Domonoske, Camila. “Linguists Discover Previously Unidentified Language In Malaysia.” NPR, NPR, 7 Feb. 2018, www.npr.org/sections/thetwo-way/2018/02/07/583931629/linguists-discover-previously-unidentified-language-in-malaysia.
Kumar, Vikrant, et al. BMC Evolutionary Biology, BioMed Central, 2007, www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1851701/.
“Unknown Language Discovered in Malaysia.” Smithsonian.com, Smithsonian Institution, 9 Feb. 2018, www.smithsonianmag.com/smart-news/unknown-language-discovered-malaysia-180968099/.
Zhang, Xiaoming, et al. “Y-Chromosome Diversity Suggests Southern Origin and Paleolithic Backwave Migration of Austro-Asiatic Speakers from Eastern Asia to the Indian Subcontinent.” Nature News, Nature Publishing Group, 20 Oct. 2015, www.nature.com/articles/srep15486.