人種ってなに?

「人種」という言葉は普段世界の様々なグループのことを語る時に何気なく使われています。たとえば、「黒色人種(黒人)」や「白色人種(白人)」、「黄色人種」と世界の人々を分類していることを見かけます。また、科学風に「ネグロイド」や「コーカソイド」または「コケイジャン」など言う人も見かけます。

でも、実際に「人種」って何なのでしょうか?

出来るだけ単純に説明するなら、人種には生物学上の根拠は無く、社会の中で作り上げられてきた人類を肌の色などで区別、差別する概念と言えるでしょう。

どういうことなのか見ていきましょう。

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「人種」の概念は生物学的に無効?

「人種」の概念の問題点は、肌の色は単に数多くある様々な人々の特徴の一つに過ぎないのと、肌の色は単に環境に合った適応でしかないのです。

また、「人」というとあたかも動物の「」のように現在の人類が別々の種に属するかのように響きます。実際には現在の人類は一つの種、「ホモ・サピエンス」(羅: Homo sapiens)です。違う動物の種同士では子孫を残すことが不可能であったり、出来ても子孫の生存率や生殖能力がとても低いことが多いのです。

一方で、アフリカの男性とヨーロッパの女性が子ども作れるし、どんなに見かけの違う人同士でも健康な精子と卵子を持つ男女のペアであれば子どもを作れます。なので、現在の人類は一つの種に分類されます。

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さらに「人種」の概念を解体していきましょう。

肌の色の違いとは

「人種」は肌の色の違いによって決められてきた場合が多く、たとえば「黒人」や「白人」といった単語は「色」で区別されている。(特にサハラ以南の)アフリカの人々は肌の色が暗いことか多いので「黒人」と呼ばれ、ヨーロッパ人の多くは明るい色の肌をもっていて「白人」と呼ばれてきた。

でも人々の肌の写真を見れば「黒」や「白」、「黄」色などの単純な色は実際の色ではないことが分かります。実際に、人々の肌の色はそれぞれ微妙に異なり、体の部位によっても異なります。

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なぜ世界には様々な肌の色があるの?

では、なぜこの世界には様々な肌の色があるのでしょうか?ヒントは環境への適応です。

私たちホモ・サピエンスの祖先はアフリカで誕生しました。日差しがとても強いアフリカに暮らしていた私たちの祖先たちは紫外線 (UV) から体を守るための濃い肌の色をもっていました。

メラニン色素が多く集中すればするほど肌の色は暗く見えて、体が紫外線を吸収しづらくなります

しかし、一部の人々はアフリカを出て暮らし始めました。濃い肌の色は日差しの強いアフリカでは有利でしたが、日差しの弱いユーラシア(特に北部)では濃い肌の色を持っていると充分に日差しを浴びてビタミンDを得ることが出来ませんでした。

ビタミンDの不足は「くる病」などの健康問題を引き起こすことがあります。

アフリカを出た集団の中の少し肌の色の薄い人々は、限られた日差しを多く浴びることが出来ました。すると、肌の色の薄さが日差しの弱い土地では有利に働き始めます。充分な日差しを浴びることによって健康問題が減れば、生き残って子孫を残す確率が上がります。

こうして、ユーラシアの日差しの弱い地域では肌の色が薄い人々が増えました。

紫外線の強さと肌の色の濃さは地図の上で大体一致します。

Unlabeled Renatto Luschan Skin color map
By Original: The Ogre Vector: Crisco 1492 [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/), CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/) or GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)%5D, via Wikimedia Commons
例外もあります。たとえばイヌイットは日差しが弱い北極圏などに住んでいるにも関わらず、肌の色は特に薄くはありません。なぜなら、イヌイットの伝統的な食事はビタミンDが豊富なので、肌の色が薄くなくてもあまり不利ではないのです。

肌の色の違いは日差しの強さや弱さに対する適応でしかないのです。生物学上、人種という概念を使って人々を分類する必要は無いのです。

ということは、「人種」は存在しないのでしょうか?

社会に存在する「人種」の概念

「人種」という概念は社会に存在しています。人々が人種という概念を信じ、差別を続ける限り、「人種」という概念が社会から消えることはありません。

植民地主義や奴隷制に始まり、今でも人種の概念は社会の中で生き続けていて、肌の色の違いによって差別を受けている人々がいます。

人種の歴史

「人種」(英: race)という言葉の起源は明らかではないようですが、民族を区別するときに使われていたようです。

私たちが知るような奴隷制の前に、17世紀のイギリスの植民地である現在のアメリカ合衆国にあたる地域では、肌の色に関わらず(アイルランド系やイングランド系、アフリカ系などの)位の低い奉公人や奴隷がいました。奉公人や奴隷たちは一定の期間働いたあと、開放されていたようです。

しかし、綿花から種を取る技術がアメリカで広まり南部でコットンの生産が高まり、コットンは大きな輸出品となりました。富に対する欲求とコットンの需要の高まりによってさらに労働力が必要となり、アフリカから多くの奴隷が連れてこられました。

この頃から「アフリカ人」または「黒人」が主な奴隷として、過酷な労働を強いられるようになりました。

Family of African American slaves on Smith's Plantation Beaufort South Carolina
サウス・キャロライナ州の黒人奴隷の家族 (1860年代ごろ) Public Domain
18世紀には間違った科学によって非平等的な「人種」の概念が支持され、白人以外の人種は劣っていると考えられるようになりました。

生物の分類方法を編み出した事で有名なカール・フォン・リンネはその概念を人間にも適用し、(北米先住民を示した) Homo americanus 「アメリカ(人)種」などといった「種」の分類をしました。

上でも述べたように、私たち人類は世界の出身地がどこであろうと同じ ホモ・サピエンスHomo sapiens です。

そして南北戦争後のアメリカでは奴隷制度が終わりました。しかし、様々な法律や制度によって「黒人」たちは差別され続けられました。

 

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“COLORED”と書いてある有色人種用の水飲み場。1930年代のアメリカでは人種隔離政策が行われていた。 Public Domain

1960年代には公民権運動の高まりによってジム・クロウと呼ばれる人種隔離主義的な法や制度が取り払われはじめました。

そして、現在に至ります。現在人種差別は無くなったのでしょうか?

人種の現在

アメリカ合衆国をはじめ、世界の多くの国々では肌の色や先祖の出身地によって現在でも多くの人々が差別されています。

単に個人が他人を人種に基づいて差別することがあるだけでなく、社会の構造が特定の人種の人々を差別することがあります。

例えば、人種差別によって健康に暮らしたり教育を受ける機会が妨げられたりすることが多くあります。アメリカ合衆国では黒人の乳幼児死亡率は白人と比べると高いことは、人種差別が作り上げた社会構造と関係しているのではと言われています。

また、警察や裁判所などの権力によって差別を受けている人種の人々もいます。例えばアメリカ合衆国では黒人の法律違反者は同じ罪を犯した白人に比べて10%長い刑期を言い渡されるようです。prison-370112_1920

また、黒人やラテンアメリカ系の人々に先入観を持ち、疑う警察官もいます。

例えばニューヨーク市警の警察官によって日本で言う職務質問をされる人々の80%は黒人とラテンアメリカ系のようです。ちなみに2016年のアメリカ合衆国の白人は人口の76.9%で黒人は13.3%、ラテンアメリカ系は17.8%でした。

まとめ

肌の色の違いは単に私たちの先祖が日差しの強さの違う環境に適応して発達しただけなので「人種」の概念は生物学的には不必要です。

それなのに、人々は肌の色の違いを優越や知能、行動と結びつけ特定の肌の色をもった人々を差別してきました。現在でも世界の様々な社会では人種差別が続いています。

なので、単に「人種は存在する」、や「人種は存在しない」と言うのではなくて「生物学的には人種というものは存在しないし不必要だが、人々が人種という概念を社会の中に作り上げてしまった以上、社会の中には人種という概念が存在している」というのがバランスの取れた「人種」に関する視点なのです。colorful-1974699_1920


さらに読みたい方は

Anthro JP みんなの人類学 記事

社会全体からの差別

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外部サイト

肌で感じた人種差別 アメリカの人種差別問題はどこに向かうのか? ハフィントン・ポスト日本語版

子どもの頃に米国で人種差別を経験、目撃した千葉県議会議員による投稿。

(4)アメリカの黒人奴隷制 世界史の窓

アメリカの黒人奴隷制度の概要はここでチェック

アメリカの黒人の人種差別問題の歴史!現在の状況は?

アメリカの黒人差別の歴史を読みやすくまとめてあるページ


参考文献

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