文化人類学を独学したい人のためのガイド

文化人類学が気になっていてもどこから学び始めればいいか分からない人は少なくないのかもしれません。最近、Anthro JP みんなの人類学の Peing 質問箱 にどのように文化人類学を独学するかについての質問が届きました。数学や文学、音楽、生物学、経済学などと違って文化人類学について学校で習ったという人はとても少ないはずです。それでも、文化人類学は私たち人類の文化についての学問です。そんな、身近であるはずの学問を学ばないのは私たち人類にとって大きな損かもしれません。この記事は、どこから文化人類学を独学するかについての簡単なガイドです。

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まず、確認しなくてはいけないことは、人類学は文化人類学だけでなく、自然人類学、さらにアメリカ合衆国では考古学や言語学までを含む広い学問であるということです。この記事は、人類の文化に焦点を当てた、文化人類学のガイドです。

さらに、文化人類学でさえ広い領域を持っています。人間の社会や文化には様々なトピックや問題、疑問、側面などがあるので、文化人類学のテーマは様々です。

自分の興味や関心、得意分野、学び方によって人類学を学ぶスタート地点は様々でしょう。ここではいくつかのシナリオを並べてみました。

  1. 人類学の歴史から学び始める
  2. 気になるトピックがある
  3. 人類の特定の側面に興味がある
  4. 特定の文化について関心がある
  5. 文化人類学を全体的に学びたい

I. 人類学の歴史から学び始める

どの学問を始めるにも、バックグラウンドから知りたいという人は多いのではないでしょうか?「歴史から学んでみる」も文化人類学の学び始め方の一つです。「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」文化人類学を発展させてきたのかを調べるのは良いスタートかも知れません。

人類学のバックグラウンド

人類学がいつ、どのように、誰によって始められ、発展されてきたのかを調べてみることは現在の文化人類学について理解する一つの方法です。

人類学の歴史は明るい面もあれば暗い面も大きくあります。私たち人類とは一体何なのかを科学的に追求しようとする試みた人類学者たちや、植民地主義、帝国主義、「未開人」の調査、戦争中に敵国の文化を調査する活動などに関わって来た人類学者なども存在してきました。

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批判と反省

人類学の歴史を批判と反省なしには語れません。初期の人類学者たちの多くは西洋の文明が優れていてそれ以外の文化などは原始的で未開なので劣っているなどと考えました。また、人類学者たちが進化論を誤った理解の仕方で文化人類学に応用したこともありました。

文化人類学では他の社会科学や自然科学のように、既存の理論や考え方、調査方法に欠陥があれば批判と反省が行われて来ました。

例えば「世界の未開の文化は西洋のような発展した優れた文化に進化する」という当時の人類学者たちの思い込みに対して、ボアズと後の人類学者たちによって、異なる文化の形は違った環境に対しての適応の結果でしかなくて、(「優れた」)一定方向に文化が進化するということは立証できないということが露わになりました。

このトピックについてさらに読みたいなら: 「未開人」の考え方

また、文化人類学者の滞在や出版によって研究の対象となった社会に暮らす人々の生活に悪影響を与える可能性があることが分かったので、現在では調査する側の倫理規定や倫理観について議論がよく行われます。

文化人類学者たち

現在まで様々な理論や考え方を持った人類学者たちが存在してきました。例えば、ブロニスワフ・マリノフスキは実際の社会を観察するために、現地の人々と暮らす、参与観察 (英: participant observation)を行い、その手法は現在でも人類学やその他の社会科学でも重要です。

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ブロニスワフ・マリノフスキ [Public Domain]

米国中心の文化人類学と自然人類学、言語学、考古学の4分野を抱える人類学の発展に貢献したフランツ・ボアズなど、ここでは書き切れない程、多くの人類学者たちが活躍してきました。人類学者たちの活躍や貢献、もちろん誤りからも学ぶことは多いはずです。

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フランツ・ボアズ [Public Domain]

様々な理論や考え方

様々な人類学者が存在してきたので文化人類学にも様々な理論や考え方が存在してきました。

文化人類学の内部で発展した理論もあれば、他の社会科学や哲学などで使われてきた理論などを文化人類学者が使ってきたこともあります。また、文化人類学で発展した理論や考え方などが他の分野でも使われてきました。

伝播主義や機能主義、構造主義など、文化人類学にも様々な理論が存在してきました。

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文化人類学の中で特に重要な考え方はいくつかあります。例えば、絶対的に正しい、良い、優れている文化は存在しないという文化相対主義的な考え方は文化人類学の中でも特に重要な考え方の一つです。文化相対主義に関しては様々な議論があるので、「自分はどう考えるか」を問いながら、読み聞きした事を単純に飲み込まずに、よく考えてみましょう。

さらに、マルクス主義やフェミニズムなども文化人類学者たちの考え方に大きく影響を与えてきました。

II. 気になるトピックがある

人類の社会や文化に関連した気になるトピックがすでにある人も多いのではないでしょうか?例えば、女性の地位などに関心がある人は、フェミニスト人類学をキーワードに書籍などを読んでみると良いかもしれません。また、人類学を利用して、人種や民族に関しての知識を広げ理解を深めたい人もいるかもしれません。

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III. 人類の文化がもつ特定の側面に興味がある

各文化は特有の家族や親族の構造、インセストタブー、社会の構造、共同体、ジェンダーロール、信条、価値観、儀式などを持っています。

例えば、イトコと結婚しなければいけない社会もあれば、イトコとは結婚してはいけない社会もあります。同じイトコでも母親もしくは父親の性別とは別のイトコと結婚しなくてはいけない文化もあれば、逆に、してはいけない文化もあります。また、母親もしくは父親と同じ性別のイトコと結婚するのが求められる、もしくは避けられる社会もあります。

また、外国語を習ったことがある方は経験があるかもしれませんが、親族の呼び名は文化とその言語によって異なります。

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IV. 特定の文化に興味がある

文化人類学者の多くは民族誌を書いてきました。文化人類学者などは参与観察 (英: participant observation)という実際に理解を深めたい文化の中に暮らし、人々の生活を観察します。その観察に基づいて文化人類学者たちは分析を行って、民族誌を書き上げます。

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「エキゾチック」な文化が人類学者の研究対象という訳ではない。どんな文化でも研究の価値がある。

人々の集まるところには特有の文化と共同体が存在するので、この世界には数えきれないほどの文化が存在することになります。自分が興味を持っている文化についての民族誌を読むの良いスタートかもしれません。また、民族誌を読むことによって、先入観やステレオタイプを捨てることも出来るかもしれません。

例えば、北極圏に暮らすイヌイットの民族誌もあれば、アメリカ合衆国の都市のホームレスの人々について書かれた民族誌もあります。特定の性的嗜好をもつ人々についての民族誌もあれば、特定の宗教を信じる人々に関しての民族誌もあります。

民族誌を書く、という手法は文化人類学者だけではなく、社会学者などにも使われています。文化人類学だけにこだわらず、社会学者や他の学問の学者によって書かれた民族誌も読んでみると良いです。

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V. 文化人類学を全体的に学びたい

文化人類学を全体的に学んでみたいと思う人もいるかもしれません。比較的大きめの本屋や図書館で文化人類学の入門書を探してみると良いかもしれません。無理せず、わかりやすい本から読み始めてください。

注意したい点は、入門書や教科書も文化人類学での思想や理論を代表するものではないということです。筆者によって特定の理論について詳細に書いていたり、詳細が欠けていたりします。重要なのは、「これは本当なのか?」や「なぜ?」という疑問を持ちながら読むことです。

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おまけ

もし日本語以外の言語で読むことが出来るなら、その言語で文化人類学に関しての情報を集めてみるのもいいアイディアです。国や地域によって人類学や文化人類学のバックグラウンドが異なるので、多言語で文化人類学を読むことによって、様々な視点を持つことも出来ます。

英語で書かれた人類学の入門書は多くあるので、日本語だけでは情報が足りないと思った時には、英語などの外国語を使ってみると良いかもしれません。

英語圏の人類学ウェブサイト/ブログ一覧
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まとめ

自分の関心や得意分野に合わせて、無理をせずに自分にあった学び方を見つけて、文化人類学を学んでみてください。また、疑問や批判的思考は文化人類学を読むのに重要です。

Anthro JP みんなの人類学 でも入門記事を更新していく予定なので、ぜひチェックしてください。

またこの記事にも随時情報を追加していきます。

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更新: 2019/07/07: 見出しなどのスタイルを調整。


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