アメリカ人類学の4分野アプローチ
世界各国で人類学が関わる分野は異なっています。
一般的にアメリカ合衆国の人類学は、「人類とは何か」や「人類であるということはどういうことなのか」という問いに総合的に取り組むために、文化人類学と自然人類学、言語学(言語人類学)、考古学からなります。
このような観点をホーリズム(holism)といいます。
この独特な4分野アプローチはアメリカ人類学の父とも呼ばれるフランツ・ボアズ(Franz Boas)の提唱した人類学からの伝統です。
・文化人類学は人類の持つ文化の特徴を探り、また特定の社会の習慣やルール、価値観などを研究します。
・自然人類学は一方で人間の生物学的な特徴に焦点を当てます。
・言語学では人間の持つ言語の能力やそれぞれの言語の特徴を研究します。
・考古学では過去の人々の残した遺物を発掘し、過去の人々がどのように暮らしていたかを証拠に基づいて考えます。
この記事ではアメリカ人類学を見渡していきます。
(American Anthropological Association “What Is Anthropology?”; Preston and Tremblay “Anthropology in Canada.”)
文化人類学 / 民族学
文化人類学(cultural anthropology / ethnology)(またの名を民族学)では人々の持つ文化に焦点を当て研究します。文化人類学者たちは今実際に存在する文化に訪れ、その社会一員たちと共に長期に渡って暮らし、彼ら彼女らの行動を観察します。
フィールドワークでは儀礼や親族関係、宗教、病い、法、交易など文化を構成するさまざまな要素を研究します。
文化人類学者は参与観察(participant observation)と呼ばれる研究方法を用いて、実際に研究の対象となる社会の中でその地の言葉を話し暮らしながら、最低でも一年や二年以上にわたって人々を観察します。
文化人類学と言えば参与観察とも言えるくらい、参与観察は文化人類学での中心的な研究方法です。
そして、その研究の最中に文化人類学者はフィールドノートをとります。フィールドノートには忘れる前に(出来れば常に起こっていることを書けると良い)詳細に「いつ、どこで、誰が、何をしたか」を書き続けます。
緻密なフィールドノートに基づいて、文化人類学者は分析をします。
(American Anthropological Association; Guest 2016; Howell 2018)

エスノセントリズムと文化相対主義
主観性は、文化人類学が研究者に観察と分析、解釈を頼るために発生しています。
しかし、文化人類学者は人類の文化を研究するために、自身の持つ考え方や先入観を批判的に捉える努力をします。つまり、文化人類学者はエスノセントリズム(ethnocentrism)に陥るのを避けようとします。
エスノセントリズム、または自民族中心主義とは、自身の文化の価値観などに基づいて他の文化を判断してしまうことです。
人類学は帝国主義と植民地主義と共に生まれた学問で、初期の人類学では特にヨーロッパ人とアメリカ人が中心に非西洋文化の研究をおこないました。19世紀後半から20世紀前半にかけて、資本主義経済の拡大によって影響を受ける非西洋の文化を劣っているものとして捉える理論が支配的でした。
一方で文化人類学者は非西洋文化を未開で野蛮なものとしてではなく、研究対象の文化をその固有の文脈の分析を試みるようになります。このような態度を文化相対主義(cultural relativism)といいます。
ここで注意しなければいけないのは、文化相対主義には本来の意味とはかけ離れた誤用や濫用が見受けられることです。
被抑圧者・被植民者の立場から文化を見つめるのが文化相対主義の本来の態度です。
相対主義を被抑圧者・被植民者の自由を奪うこと(歴史改竄やファシズム、ジェノサイド、植民地主義など)を正当化するために利用するのは絶対に許されることではありません。
イーミックとエティックの視点
イーミック(emic)の視点は、文化の内部者たちの考え方で、その土地の人々の考え方とも言えます。研究の対象の文化を深く理解するには、内部者たちの視点は必要不可欠です。
また、文化人類学者には外部から文化を観察するエティック(etic)の視点も求められます。学者として文化をエティックの視点から見つめ、分析する際に、自民族中心的な解釈に陥らないよう、注意が必要です。
文化人類学者はこれらの複数の視点から文化を解釈し、記述します。
(Guest 2016; Oxford Bibliographies 2018; “Emic and Etic Perspectives.” University of Hawai’i Leeward Community College)

文化人類学の下位分野や隣接分野
人々の暮らしや考え方、感情などを研究する文化人類学には多くの下位分野や隣接分野があります。
医療人類学は医療と人々を研究します。患者のナラティブやライフヒストリーを研究することもあれば、メディカリゼーションの過程を分析することもあれば、医療と社会構造を批判することもあります。
批判的医療人類学(critical medical anthropology, CMA)では医療や健康の不平等に焦点を当てます。集団の苦しみの原因を社会の構造に見出します。
応用人類学では文化人類学の手法やそれによって得られる知を使い、実際の社会で変化をもたらします。
例えば、応用人類学者はNGOやNPOなどで働いたり、ビジネスの世界で人類学の手法や知を使うことがあります。
同時に人類学者としての倫理観が問われます。文化人類学者の軍の作戦や諜報活動への協力は、文化人類学の倫理観 (例えば、研究に協力する人々に害を与えないなど)と相容れない問題です。
過去には人類学者としての立場と知識、手法を利用して諜報活動している人類学者をフランツ・ボアズがThe Nation誌で告発した事もありました。(Price, The Nation 2000)
そのほかにも都市の人々や暮らしに焦点をあてた都市人類学や経済活動に焦点をあてた経済人類学など、人のいる所ではどこでも文化人類学ができるようです。

文化人類学について学びたい人は
文化人類学を独学したい人のためのガイド

自然人類学 / 形質人類学

自然人類学 (英名 biological anthropology / physical anthropology)(もしくは形質人類学)は人間の生物学的な特徴に焦点を当て、人類とは何かを研究します。自然人類学では人類がどこでどのように誕生して地球全体に広がったのか研究したり、世界各地に住む人々の生物学的多様性について研究します。自然人類学は進化論を用い、どのように人類が進化してきたのかを研究します。私たちホモ・サピエンス (羅: Homo sapiens)だけではなくネアンデルタール人などの化石人類について研究する学者もいます。
人類だけに限らず、霊長類全体を研究する霊長類学もこの分野と隣接しています。ホモ・サピエンス以外の私たちにとても似たチンパンジーやボノボなどを研究することによって、私たちが進化の最中にどのように枝分かれしたのか、どのような点が似ているのか、違っているのかを比較することもできます。
(American Association of Physical Anthropologists; “Physical Anthropology.” Encyclopædia Britannica)
自然人類学と「人種」
この分野での大きな研究成果は「人種」というものには生物学的な裏付けや証拠がないということです。人種とは生物学的な概念ではなく社会的な概念なのです。この結果まで行き着くのに自然人類学や生物学を含めた自然科学は多くの時間を要しました。過去の科学者は人種というものが存在し、それぞれの人種が知能に優劣があると信じていました。
人種ってなに?
詳しくはAnthro JPの人種に関するこの記事
古人類学 (英名 paleoanthropology)は人類がどこでどのように進化してきたかなどを生物学や遺伝学、考古学的証拠、過去の気候や環境に関する情報を利用して推測する分野です。私たちホモ・サピエンスは種としてこの地球上に200,000年は存在してきたのだと言われています。また、ホモ・サピエンスの起源は現在ではアフリカであると考えるのが主流です。
ホモ・サピエンス以外にも様々な人類の種が存在してきました。私たちの先祖の多くと混じり合った後に絶滅したネアンデルタール人や、ホモ・フローレシエンシスと呼ばれる私たちホモ・サピエンスと比べるととても体の小さい人類も過去に存在しました。なぜ、ホモ・サピエンスだけが唯一生き残った種であるのか議論は続いています。ホモ・サピエンスは文化や技術による適応(服を作り火をおこすなど)によって様々な気候で有利に暮らすことができたり、言語によって効率の良いコミュニケーションが有利になったのではないかと、様々な説があります。

霊長類学ではホモ・サピエンス以外の現在存在する霊長類の種を研究することによって、それらの種の生態解明だけでなく、人類がどのように他の霊長類と違うのか/似ているのかを研究します。私たちホモ・サピエンスもゴリラやチンパンジー、ボノボ、ニホンザルなどと同じ霊長類に分類されます。
言語学 / 言語人類学

言語学 (英名 linguistics / linguistic anthropology) では、人類の持つ言語の能力だけと世界中の言語とそれらの特徴ついて研究します。米国以外の大学では言語学は人類学部以外の学部に存在することが多いようです。言語学には歴史的な流れの中の言語を研究する通時言語学と時間とは関係なく言語を研究する共時言語学があります。歴史言語学では特定の言語がどのように変化してきたか、どの言語とどの言語が系統的に関連しているのか、などを研究し、祖語を再建しようと試みます。
また、言語学の中には言語の構造のどの階層を研究するかによって音韻論や形態論、統語論という下位分野が存在します。一方で、言語の構造ではなく、どのように言語が使われ、機能しているのかを研究する下位分野も存在します。語用論では言語が会話や文章の中で実際にどのように使われているかを観察し分析します。意味論では言語の使用者の頭の中でどのように単語や文章などが意味を持っているかを研究します。
さらに、社会の中で言語がどのように使われ、認知されているかを研究する社会言語学や、文化や考え方と言語がどのように関連しているのかを研究する言語人類学が存在します。
米国では、人類学的と深く結びついた言語学の研究をする学者もいれば、ヨーロッパの学者の様に言語学を独立した分野として扱い研究をする学者もいます。前者は言語人類学者とも呼ばれます。
インド・ヨーロッパ語族の発見
インド・ヨーロッパ語族の発見は言語学の歴史で重要なイベントです。インド・ヨーロッパ語族とはヨーロッパからインドで喋られてきた同系の言語のグループで、英語やドイツ語、フランス語、ラテン語、ロシア語、ペルシャ語、パンジャーブ語、ヒンディー語、サンスクリット語など様々な言語がこの語族に属します。
多くのヨーロッパの言語がお互いに似ているということにヨーロッパの学者たちは気が付いていたようですが、18世紀後半から19世紀前半になってやっと学者たちは本格的にヨーロッパの言語とユーラシアの他の場所で喋られている/いた言語が互いに関連していると考え始めるようになったようです。この時期に、時間が経つにつれて言語は変化することが知られてきました。
なぜヨーロッパの言語は似ているのか
インド・ヨーロッパ語族についてもっと知りたい方はこの記事を
北米の言語学
一方、北米では言語学と人類学は密接に関係し、多くの米国の言語人類学者や言語学者たちが北米などの言語の研究を行ってきました。例えば、アメリカ人類学の父とも言われるフランツ・ボアズは、文化人類学的研究以外にも北米の言語の研究を行いました。ボアズはカナダのブリティッシュコロンビア州に住むクワクワカワク (クワクワラ: Kwakwaka’wakw) によって喋られるクワクワラ、(またの名をクワキウトル語)をはじめ、数多くの北米の先住民族の言語を研究しました。1911年に彼は北米先住民族の言語についての論文集、Handbook of American Indian languages を他の言語人類学者や言語学者などと共著しました。
ボアズの言わば弟子たちの間にも言語学者や言語人類学者がいて、米国の言語学や言語人類学の分野を発展させました。サピア=ウォーフの仮説で有名なエドワード・サピア (1884 – 1939) はボアズに影響され、北米先住民族の言語の研究をしました。

(“Edward Sapir.” Encyclopædia Britannica; “Franz Boas.” Encyclopædia Britannica)
言語人類学
言語人類学では、言語がどのように文化や社会、考え方などと関連し互いに影響を与え合っているかを対象に研究をします。
この分野ではサピア=ウォーフの仮説 (別名: 言語相対性仮説) という有名で異論を呼んだ説があります。これは、それぞれの言語とその文法的、語彙的特徴が話者の考え方を作り上げるという仮説です。もしこの仮説が正しいのなら、英語話者の考え方は英語によって作り上げられていて、日本語話者の考え方は日本語によって作り上げられているという事になります。しかし、現在では多くの言語学者たちは言語が話者の考え方を作り上げるというより、話者の考え方にある程度影響を与えるという立場をとっています。(“Language and Thought” Linguistic Society of America)

社会言語学
社会言語学では言語と社会の要素 (例えば地方や人種、階級、ジェンダーによっての言語の使い方の違いなど) がどの様に結びつき、機能しているのかを研究する分野です。客観的にはどの方言や喋り方が優れていたり美しいという事はありませんが、社会の中で人々が恣意的に特定の方言を見下したり、尊敬したり、正しいと考えたりします。社会言語学ではどのように特定の方言が存在したり、受け止められているのかも研究します。

英語を例に考えてみましょう。英語には様々な方言があります。英国や米国だけでなく、アイルランドやインド、オーストラリア、カナダ、ジャマイカ、ニュージーランド、南アフリカなど、様々な国で喋られていて方言の数も豊富です。それぞれの国の中にも地域や階級、民族、人種、ジェンダーなどによって英語にも種類があります。他の国でもそうである様に、米国では地域によって方言が異なります。例えばニューヨーク市で喋られている英語とシカゴで喋られている英語では発音が異なります。また、使われる単語も地域によって異なります。さらに同じ町の中でも人種や民族によって喋る英語が異なることがあります。アフリカ系アメリカ人英語はとても有名な例です。社会経済的地位によっても喋り方に差があるようで、ain’t や 二重否定 (例: I didn’t do nothing)などが「標準的」ではないとされている用法を誰がどのシチュエーションで使うのかを研究することもあります。また、ジェンダーによって喋り方が異なる事が多いです。
(“Sociolinguistics.” Encyclopædia Britannica; “Sociolinguistics” Linguistic Society of America)
米国の社会言語学ではウィリアム・ラボフ(William Labov)(1927-)による研究が有名です。彼は北米の英語(米国とカナダ)の方言と方言の変化について他の言語学者と共に北米英語の方言を調査し、The Atlas of North American English (2005)という概論書を編纂し、インターネット上でも簡略化されたバージョンを観覧することができます。例えば、米国西部とカナダの多くの地域では cot や caught などの低母音が同じく発音されます。一方で米国北東部のニューイングランドなどでは cot と caught の母音は区別されます。
方言についての記事は
アメリカ英語の発音、イギリス英語の発音・・・ ~英語の方言シリーズ~
考古学

考古学 (英名 archaeology)では、過去の人々が残した遺物を発掘し、過去の人々がどのような社会を持って暮らしていたのかを考えます。考古学では工学技術や科学の力を利用し、遺物を発見し発掘、分析します。考古学には数多くの科学や工学の知識や技術が生かされています。考古学が扱う時代はとても広く、私たちの時代に近い時代だけでなく、人類の始まりの時代までの幅広い時代が研究対象です。この記事では古人類に関わる考古学と欧米の歴史に関わる考古学、非欧米の歴史ではあまり語られることのない社会に関しての考古学に分けます。故人類に関わる考古学は自然人類学の分野、古人類学の章呼んでください。欧米の歴史についての考古学は人類学より歴史学への関わりが大きいのでこの記事では扱いません。
(“Archaeology.” Encyclopædia Britannica)

考古学の方法
考古学者は単に遺物を掘り上げるのではなく、遺跡の全体像や遺物のある層などのコンテクストを入念に記録してから、掘り上げます。これは、遺物の見つかった場所の状況などが多くの情報を学者たちに与えるので、遺物を単に掘りおこすとその貴重な情報が失われてしまいます。

考古学と自然科学
考古学では自然科学の知識が幅広く使われています。例えば、地質学は考古学者にどのように地層が形成されていくかの知識を与えます。放射性炭素年代測定などのような化学を利用した技術を使い、考古学者が遺物がいつ作られたのかを推定することがあります。骨学の知識を元に死者の骨を分析し、その人物が生前どのような健康状態でどのように亡くなったのか推測することもできます。また、遺跡の土壌や遺物に残った植物などを分析することによって、どのような植生があり、どんな植物が食されていた可能性があるかを推測することもできます。
ヨーロッパと米国の考古学
ヨーロッパの考古学と比べ、米国の考古学は遅い時期に学問として発展し始めました。ヨーロッパでは古代ローマや古代ギリシャ、古代エジブトへの関心から、過去の遺物を掘り起こす事が行われてきました。ヨーロッパでは単に遺物を掘り起こしコレクションする時代を経た後に、科学的にコンテクストの記録や測量をしっかり行った後に発掘する、考古学が始まりました。
一方、米国の考古学はヨーロッパ系の植民者たちによって、先住民たちの文化や住む土地を調査する遠征などと深く関わってきました。職業としての考古学者が活動したというより、地質学者や測量家などがまだ、植民者たちがまだあまり知らない土地を調査するために遠征を行いました。そんな時代に設立されたのがスミソニアン協会 (1846年設立) です。植民者たちが戦争や侵略により、領地を広げる中、先住民たちや彼ら彼女の文化の起源に興味があったようです。
(Schuyler 1971)

パラダイム
考古学にもいくつかのパラダイムが存在してきました。
1960年代から始まる、プロセス考古学または新考古学 (英: Processual archaeology, New archaeology, 中: 過程主義考古學) では、考古学を科学として、科学的手法などを確立させようとしました。その手法を利用し、人類がどのように自然環境の中で生きていくかに関する仮説や理論、法則などを生み出しことに力を入れました。
(Hirst “Processual Archaeology – The Scientific Method in Archaeological Study”)
1980年代ごろから始まるポストプロセス考古学または解釈考古学 (英: Post-processual archaeology, Interpretive archaeology 中: 後過程主義考古學, 解釋考古學)はいくつかの特徴を持ったパラダイムで、プロセス考古学を批判する形で現れました。ポストプロセス考古学では、多様な人類の社会や文化、行動などは自然環境への適応だけで一般化することはできないという、プロセス考古学への批判があります。
さらに、ポストプロセス考古学はマルクス主義的な社会階級や権力に敏感な視点を持ったパラダイムとも言えます。ポストプロセス考古学では、「過去に何が起こったのか」を推測する際には、「誰がどんな権力を持っていたのか?」や「権力を持たない人々の暮らしはどうだったのか?」、「社会の中での力関係はどうなっていたのか?」などを問いながら考古学的証拠を分析します。
(Hirst “Post-Processual Archaeology – What is Culture in Archaeology Anyway?”)
また、ポストプロセス考古学には「過去に何が起こったのか」に対する答えは学者自身の主観的な解釈に左右されることを認める態度もあります。言い換えれば、多様な解釈が存在するということを認めるということです。
(“Interpretive Archaeology” Oxford Reference)
民族考古学 (英: ethnoarchaeology)
民族考古学は民族学/文化人類学の知識や方法を使った考古学の分野です。この分野では、現存する社会の民族誌から得られる知識を使い、その社会と繋がりのある遺物の解釈を行おうとします。この方法は、現存する社会の文化が過去の社会から継続されてきたことが分かっている場合に使えます。
例えば、2本の木の棒を使い食事をとる民族が現存しているとします。さらに、その民族の伝統的な土地で古い木の棒の遺物が見つかったとします。その木の棒を使う民族がどのように木の棒を使うか、民族考古学者は聞き取り調査を行います。また、どのように木の棒が作られ、使われているかを観察し、記録します。そして、実際に発掘された木の棒がどのように使われていたのかを現在の使い方から推測します。このように、民族誌が考古学に生かされます。
現在の文化と過去の文化の継続性や連続性のことを文化的継続性 (英: cultural continuity)と言います。
(Hirst “Ethnoarchaeology – Blending Cultural Anthropology and Archaeology”; “Ethnoarchaeology” Oxford Bibliographies; Ware 2017)
さいごに

このように、米国の人類学は4つの分野 (文化人類学、自然人類学、言語学、考古学)から構成されます。現在の人類学者は全ての分野を網羅して研究するのではなく、それぞれの専門分野を研究します。
しかし、一つの分野で生まれた知識や理論などは別の分野で使われたり、発展させられます。民族学が考古学の研究を助けたり、考古学や自然人類学の研究結果を文化人類学の研究に利用したり、言語と文化がどのように関わっているのかを知るために言語学と文化人類学の知識と方法が結集されたりします。
この記事では米国人類学の4分野それぞれの全体的な説明をし、いくつかの特徴を挙げてきました。今後、もし「この分野をもっと知りたい」というリクエストなどがあれば、さらに掘り下げて記事を書きたいです。

参考文献
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