
はじめに
このシリーズでは、文化人類学に興味がある人のために、文化人類学での基本的な概念や用語などを総合的に見渡していきます。文化人類学についてはじめて学ぶ人に向けて書いていきます。
もしわかりづらい箇所があったら、是非コメントなどで質問をしてください!また、触れて欲しいトピックなどがあったらコメントなどでリクエストしてください!
このシリーズやAnthro JP みんなの人類学をいいなと思ったらぜひ、知り合いや友達などに紹介してください!
画像: ニューヨークシティのタイムズスクエア。様々なバックグラウンドの人々が交差する。(Photo by Vlad Alexandru Popa on Pexels.com)
文化人類学って?
文化人類学*は私たち人類の持つ文化に焦点**を当て、文化を構成する要素である習慣や規則、価値観、道徳、信仰、思想、言語、芸術、技術、科学、婚姻、親類関係、交換、役割分担、労働、ジェンダー、セクシュアリティ、民族性、人種、医療、健康、病など、多岐にわたって詳細に、そして批判的に研究する学問です。このように多岐にわたって研究する学問なので、詳細に定義をするのは難しいです。逆にトピックの多様さと自由さが文化人類学の魅力でもあります。文化人類学の基本的な概念を学んだら、自分の興味のあるトピックについて深く学んでみましょう。
*文化人類学(英語: cultural anthropology)は主に米国や日本で中心に使われる用語で、英国では社会人類学(social anthropology)と呼ぶことが多いようです。このサイトでは米国の文化人類学の観点から解説をしますが、もちろん密接に関わった他国の文化/社会人類学も紹介していきます。また、民族学 (英: ethnology, 仏: ethnologie)と文化人類学はほぼ同じ意味としても問題ないでしょう。
文化や社会
文化とは人々が社会の一員として生まれてから無意識や意識的に身に着けたり経験する習慣や規則、価値観、道徳、信仰、思想、言語、芸術、技術、科学、婚姻、親類関係、交換、役割分担、労働、ジェンダー、セクシュアリティ、民族性、人種、医療、健康、病などの全体です**。
そして、文化は触ることの出来ない抽象的な概念で、各文化には明確な境界線はありません。文化はさらに時間の経過と共に常に変化を続けます。
社会とは複数の人々がお互いにふれあい、影響を与えあう集団です。なんらかの共通の空間や、習慣、規則、アイデンティティを共有しています。社会も文化と同じく、明確な境界線を引くことは出来ません。そして、例えば、アメリカ合衆国という大きな共同体を社会と呼ぶことがあれば、アラバマ州のとある街を社会と呼ぶこともあります。
文化と社会は人々の集団が存在する地球上(さらにはインターネット上や宇宙)どこにでも存在します。そして、それぞれの文化や社会は大きさに違いがあります。さらに、文化と社会は完全に同質的であることはありえません。ということは、社会の一員それぞれが異なる習慣やアイデンティティをもつということです。例えば、日本という社会に暮らす人々全員が同じ考え方をし、全員が同じアイデンティティを持っているというわけではありません。しかし、多かれ少なかれ何かしらの共通点をもって社会というものが存在しています。
**タイラー「未開文化」(1871)での文化の定義に基づき改変、追加。
文化人類学の手法
文化人類学者たちは文化を深く批判的に理解、分析しエスノグラフィー(英: ethnography, 民族誌 )を記述します。そのために文化人類学者たちは様々な手法で文化を研究します。文化人類学者や他の社会・歴史・人文学者たちの先行研究を参照するのに加え、自身が実際にフィールドに住み(または通い)実際に文化の中で自らが観察を行います。これは参与観察(英: participant observation)と呼ばれます。単に、フィールドに住むのではなく、現地の言語や習慣を深く理解し、身に付けながら観察を行います。多くの文化人類学者はフィールドノート(カジュアルな日記とは違う)にこれでもかというくらい、詳細に日々の出来事、つまりいつ、どこで誰が何をして何が起こったのかを記録します。文化人類学者がインタビューを行うことがあります。大抵の人類学者は参与観察をメインに、インタビューによって研究を補完します。
文化人類学者の専門分野と地域
大抵の文化人類学の研究者は自分の専門の地域と専門の分野を持っています。例えば、ある文化人類学者はパプア・ニューギニアの島々での物の交換と親類関係について研究し、 一方である文化人類学者は東京の女性セックスワーカーたちの労働とジェンダーを研究します。ニューヨーク・シティで薬物を取引する人々の研究する文化人類学者もいれば、植民地主義に対抗するメキシコの先住民族を研究する文化人類学者もいます。国際NGOの組織文化を研究する文化人類学者もいるようです。
画像: 夜の市場 (Photo by Pixabay on Pexels.com)
文化人類学に関するよくある誤解
「文化人類学はジャングルの奥地で未開で孤立した未発達な部族について観察する学問でしょ?」- この文章には文化人類学に関する多くの誤解やステレオタイプがあります。順番に見ていきましょう。
- 必ずしもジャングルの奥地の部族社会を研究する必要はない。文化が存在するところ、つまり人々の集団があるところ全てが文化人類学者のフィールドになります。例えば、モンゴルの遊牧民や中米のバナナプランテーション、北極のイヌイット、東京の魚市場、ニューヨークのウォール・ストリート、ボストンの大学病院、インターネット上のSNSなど多岐にわたったコミュニティなどを研究することもできます。様々な地域の様々な規模の社会が研究対象になります。しかし、歴史的に多くの文化人類学者(特に欧米や日本など豊かな国から来る)が非西欧や植民地、旧植民地、豊かでは無い地域などで研究を行ってきたのは事実です。
- 他の社会と一切繋がりの無い社会は存在しません。どんな社会も、度合いは異なりますが、他の社会と何らかの形で繋がっています。例えば都市から離れた「未開」と言われている集団Aが都市に近い集団Bと交易関係を持っているかもしれません。そしてその集団Bが都市の集団Cと様々な繋がりを持っているかもしれません。また、集団Aは感染症や暴力、様々な弊害を避けるために、ある程度意図的に他の社会との関わりを極力避けているかもしれません。ということは集団Aは他の社会と最低限の繋がりがあるということです。この点で「未開」という概念は問題があります。
- どの文化が優れているか劣っているかを客観的に決めることはできません。技術や社会の構造に違いはあったとしても、客観的にどの文化が優れているか劣っているかを決める方法はありません。しかし残念ながら、どの民族でも他民族を見下してしまうことがあります。この点で、「発達した文化」や「原始的な文化」という概念に問題があります。
画像: 港で船からコンテナが積まれている。(Photo by Tom Fisk on Pexels.com)
はじめての文化人類学: 目次 (更新中!)
さて、文化人類学の旅に出てみましょう!目次から各トピックのページに飛んでください。どの順番でもいいので気楽に文化人類学について見ていきましょう!
- 「文化人類学とは 」
- 歴史・理論・手法
- 「現代の文化人類学」
- 差別
- グローバル化
- 情報社会
- 環境・気候・災害
- 文化人類学の批判・反省
- 人類学の公共性
- 「アイデンティティと所属」
- 文化・社会
- 民族/エスニシティ
- 人種・レイシズム
- 言語
- ジェンダー
- セクシュアリティ
- 「政治・経済」
- 親類関係・家族・婚姻
- 交換・分配
- 食料獲得
- 職業・労働・貧困
- 暴力・紛争・戦争
- 植民地主義・帝国主義
- 「法・規範・価値観」
- 「宗教・医療・科学」
- 信仰・宗教
- 健康・医療・病
- 福祉
- 技術・科学
- 「芸術・歴史」
- 美術・音楽・劇
- 歴史・伝承
画像: 茶畑で働く女性たち。(Photo by kelly lacy on Pexels.com)
便利なリスト

さらに知りたい (更新中!)
この「はじめての文化人類学」を読み終わり、もしくは読んでいて文化人類学やそのトピックや歴史、理論、手法などにより深く知りたい人のための情報を紹介します。
もし、おすすめの書籍やサイトなどがあればぜひ紹介してください!
インターネットと外国語(特に英語)を使うことによって、無料で文化人類学について学ぶ機会が増えます。例えば、米国人類学会(American Anthropological Association)がオープンアクセス(無料・オンライン)の文化人類学の教科書を公開しています。
文化人類学についてのイベント(講演会や公開講座)などもあります。見つけたらスケジュール帳にチェックしてしまいましょう!
また、もし文化人類学についてさらに知りたいという場合、大学などで学ぶことを考えてみてもいいかもしれません。日本の大学には文系学部の中に、文化人類学や民族学の専攻があることがあります。また、日本国外の場合、人類学部がある大学も存在します。それぞれの大学や学部、研究室に特色があります。大学受験を控えている人は文化人類学の体験講座をやっている大学もあるので、ぜひ大学を訪れてみましょう。また、聴講制度を使って文化人類学について学ぶのも良いでしょう。選択肢によってはお金と労力が多大にかかるので、ゆっくり焦らず考えてみましょう。

さいごに
おことわり
Anthro JP みんなの人類学ではコンテンツの最低限の質を保つ努力をしていますが、研究機関や出版社などで実際の学者や編集者などによってしっかりと査読や校正を行った多くの論文や書籍に質で勝ることはありません。ぜひ、参考程度にAnthro JP みんなの人類学をお楽しみください。もし、コンテンツに不明な点や誤り、誤解を招くような表現などを見つけた場合、ぜひご連絡ください。
教育などに
「はじめての文化人類学」を教材として是非利用してください。その際には、Anthro JP みんなの人類学 (anthrojp.com)のクレジット表記をお願いします。その上で、カリキュラムなどに合わせて改変または複製、配布を行うことを許可します。
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画像: 海辺に浮かぶ夕日と漁船。(Photo by Agustin Piñero on Pexels.com)
更新: 2019/07/07 スタイルの変更。リンクの追加。