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構造的暴力とは?: 医療人類学による社会構造の批判

医療人類学は人々がもつ健康や病に対する理解の仕方、信念、価値観やそれに伴う健康や病の経験などを描いてきました。

一方で、医療人類学は医療や健康をめぐる不公正な社会の仕組みについて積極的な批判を避けてきたのではないか、と指摘することもできます。

構造的暴力の視点は、選択の自由と自己責任や、ライフスタイル、文化的習慣などに基づいた理解にとって代わり、社会の仕組みに対する批判社会正義の観点を与えます。

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構造的暴力は、医療人類学の主要な概念の一つで、医者で医療人類学者のポール・ファーマー (Paul Farmer)によって導入されました。この視点から、医療をめぐる不公正さに批判的な医療人類学者たちは、「構造的に不利な立場にある人々の健康がどのように脅かされているか?」を問います。(Farmer 2004b)「どのような不公正が社会に存在するのか?」や「誰の人権が侵害されているのか?」と言いかえることもできます。構造的暴力の人類学は社会正義の観点に基づいた歴史的プロセスの批判や長期にわたるフィールドワークによって、見えにくい抑圧の構造をあらわにします。

この概念は、ファーマーによって医療人類学に持ち込まれる以前に、平和研究の社会学者、ヨハン・ガルトゥングによって1969年にはじめて提唱されました。また、ラテン・アメリカでの社会正義を求める運動と共に生まれ育った解放の神学でも用いられてきました。そのほかにも構造的暴力の視点は様々な社会思想や理論から影響を受けています。

この記事では、最初に構造的暴力の概念を出来るだけ簡単に定義します。つぎに、この概念の起源をみていきます。そして、どのように構造的暴力の視点が社会構造の批判を助けるのかを解説します。最後に、構造的暴力をテーマにした医療人類学のエスノグラフィを一部紹介します。

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